紅葉宿 · Momijiyado EN
嵐山の山あひ — 朝霧と紅葉

Chapter 03 / 一 ・ はじまり

嵐山に居を構へし頃。

紅葉宿が嵐山の山あひに居を構へしは、 今より幾代も前のこととうかがってをります。 看板は出さず、 暖簾のみを掛けて、 山に分け入る道のかたはらに、 そっと佇んでをりました。

当時より、 紅葉宿は四季のしつらへを軸に据ゑ、 春には桜、 夏には川床、 秋には紅葉、 冬には椿をもって、 お客さまをお迎へしてまゐりました。

嵐山の山あひ / 朝霧と紅葉

二 ・ 女三代の系譜

紫 — 椿 — 楓

大女将 / 祖母

風間 紫

昭和十年(1935)— 当代

名にちなみ、 藤の花を愛づ。 源氏物語と父の手帖を、 若き楓へと譲り渡しました。 現在は、 京の街なかにて静かにご療養中。

椿

先代女将 / 母

風間 椿

昭和四十三年(1968)— 令和二年(2020)

中庭に、 いまも咲き継ぐ椿の木を植ゑたる人。 雪のなかで早逝なされ、 いまは中庭の樹のなかにてございます。

婚姻 — 風間 章 (板長)

当代女将

風間 楓

平成十三年(2001)十一月二十日 — 当代

紅葉の最盛期に生まれ、 母の名の樹のかたはらで育ちました。 京都の女子大にて国文学を修め、 祖母の療養を機にこの宿を継ぎました。

三 ・ 年表

紅葉宿の歩み。

  1. 明治の中頃 紅葉宿、 嵐山の山あひに居を構ふ。 看板は出さず、 暖簾のみを掛けて。
  2. 昭和十年 紫 生まれる。
  3. 昭和三十四年 紫、 若くして女将を承る。 源氏物語の写本を母より受け継ぎ給ふ。
  4. 昭和四十三年 椿 生まれる。
  5. 昭和六十年 春 椿、 十七の春、 中庭に一本の椿の苗を植ゑ給ふ。 今に至るまで咲き継ぐ。
  6. 平成七年 椿、 女将を継ぐ。 同年、 京の板場より章 入る。
  7. 平成十三年 十一月二十日 楓 生まれる。 紅葉のいよいよ盛りの朝。
  8. 令和二年 冬 椿、 雪の合間に身罷り給ふ。 樹はそのまま、 中庭にて咲き継ぐ。
  9. 令和六年 秋 紫、 ご療養に入り給ふ。 楓、 宿へと戻り、 当代の女将を承る。
  10. 令和八年 紅葉宿、 いまも嵐山にて。

「秋の野に人をやりて、 女郎花の御文を取らせたまふ。」

— 源氏物語「夕顔」より。 大女将 紫の愛でし書物。

奥嵯峨 — 苔の石段

四 ・ 源氏の縁

源氏物語との縁。

大女将 紫は若き頃より源氏物語を愛し、 紙の上の女君たちの心を、 紅葉宿のしつらへの上に重ねてまゐりました。

当代女将 楓もまた京都の女子大にて国文学を学び、 祖母の手帖に残る数々の歌を、 いまも宿のしつらへの折々に、 密かに織り込んでをります。

奥嵯峨 / 苔の石段

目次へ戻る